異次元の島 〜江ノ島〜
1999.10.02


親が近くまで遊びに来るというので、周辺の観光案内することになった.逗子に会社の保養所があるので、ココを拠点に江ノ島、
鎌倉などを観光することにした.実は吾輩、江ノ島は初めてで一度行ってみたいと思っていた場所だった.父親は中学の修学旅行
できたことがあるらしく、その当時は橋の周りにビルなどもなく、殺風景な場所だったらしい.

江ノ島には橋を渡って車でも入ることが出来るが、車で動けるのは島の東側だけで、西側の大部分は山になっているため基本的に
徒歩での移動となる.とりあえず駐車場を探すが、西側のウインド・サーファーが多い付近はどこも満車で、しかたなく島の入り
口付近にあった駐車場に停めた.500円/一日だったが、「ココで食事すれば駐車場代は戻る」とのことだったので、なかなか
「良心的だな」と感じた....のが全ての過ちの始まりだった.

この島の観光ルートは基本的に1本しかないようで、長い上り坂の両側に昔ながらのお土産屋が連なる通りをしばらく歩くと、上
に神社が見える長い階段の下に辿り着く.ふと横を見ると「便利なエスカー」の看板.「ロープウェイでもあるのかな」と思った
が「これくらいなら大丈夫」ということで足で階段を上ることに...

しかし、上の神社に辿り着いたと思ったら、まだまだ上に展望台などがあるらしい.そして、何気に「便利なエスカー」の看板.
さすがに親も(吾輩も)疲れた様子だったので、そのエスカーとやらに乗ってみることにしました.しかし、エスカーとは何のこと
はない、「何の変哲もないエスカレーター」のことで、入り口ではやたらと人なつっこいおばさんが手招きしているだけだった.
仕方なく料金(安かったけど)を払ってガタガタと山頂へ.

山頂(?)には展望台と植物園、遊園地などがあった.入り口には愛想の悪そうな係員がいて、切符を買うと「これもあげるから」
と妙な抽選券をくれた.まあ、その時は「くれる物だからラッキー」と思ったわけだが、これがあとで悲劇となろうとはこの時は
知るすべもなく...

展望台はエレベータがマニュアル操作で、怪しい係員に命を預けるのが少々怖かったが、50mの高さがあって景色は良かった.
左手に逗子・葉山の三浦半島、右手に遙か遠方まで続く湘南海岸を臨むことができる.勿論、島の全貌も見ることが出来る.真下
は植物園である.

植物園を出ると、先ほどもらった抽選券の抽選会をやっていた.何やら「ダイヤが当たる」とのことなので、「どうせ当たらんだ
ろう」と思いつつもやってみることに.すると、身なりの良い男性が妙にニコニコしながら抽選方法の説明を始める.「壺の中に
砂が入っていますが、中にダイヤが入っていますので、このサジですくい出せれば当たりです」と、壺の中を見せながら説明する.
まず母親が挑戦...「あ、ハズレですねー.じゃ、次は旦那さん、こーやってなるべくたくさん砂をすくって下さい」とアドバ
イスを受けて今度は父親が挑戦.「おっ、2個もすくえました! 当たりでーっす!」と言われて親父も大喜びで横の女性係員が
いる方へ導かれる.そして吾輩の番.こーゆーゲームは昔から得意だったので、難なくダイヤ2個ゲット.「おーっ!! またま
た大当たりー!」とずいぶん大げさなパフォーマンスをやる係員.「じゃあ、こちらへどーぞ」と吾輩も自動的に横のコーナーへ
導かれる.ふと横を見ると母親が財布から万札を出そうとしているのが目に入る.女性係員は吾輩にさっき取ったダイヤを見なが
ら「えーっと、2個ですね.では、こちらが1個千円になります」と、既にあらかじめ用意してあったと思われるアクセサリーの
展示ケースを見せながら「売り」始めた.吾輩は「いや、買うんならいらん」と断ったが、既に母親は3個ばかり買わされてしま
ったようで、「あんたにも1個あげる」だそうだ.何という見事な商売! 気が付いたら当選して、買わされてしまっている! 
「当たったハズのダイヤ2個は何だったんだ! くれるんじゃ無いのか!」という怒りも忘れさせる見事な戦術! 当然、ダイヤ
はガラスだろう.彼らはこの島でずいぶん古くから商売しているプロフェッショナルだったのかも知れない.

何ともスッキリしない気分で先の下り坂を進む3人.「だまされたな」と笑いながらも、彼らの見事な戦術に感心する.「今度来
たときはだまされないぞ」と誓うが、それは野暮ってもんだ.

しばらく坂を上ったり下ったりしていると、「竜宮」と銘打った神社に辿り着く.洞穴に祭壇が祀ってあるだけで大したことなく、
しかも「平成六年完工」とあった.「なんだ、新しいんじゃん」...

さらに進むとだんだん食事処が増えてきて、店の前で呼び込みのおばさん達が手招きしながら立っている.まだそんなに空腹では
なかったので通り過ぎたが、しばらく進むと長い下りの階段が現れ、しかも更に行くと岩場の多い海岸に出てしまった.要するに
行き止まりである.確かに戻ってくる人が多かったので、そこで気が付くべきだった.「しまった、だまされた...」3人がそ
う思っても、時すでに遅し、もう我々には同じ坂を戻ることしか残されていない.坂道の連続で相当疲れてはいたが、仕方なく回
れ右して引き返していくと、また例の店のおばさん達が、今度はニヤニヤしながら、「いらっしゃ〜い♪」と手招きをしている.
3人は目を合わさないように歩くしかなかった...

どれくらい歩いただろう、母親の万歩計はすでに五千歩を越えていた.やっとの事で島の入り口付近に辿り着いたが、時計は十二
時を過ぎており、さすがにお腹が空いた.駐車場代のこともあるので例の店に入る.メニューは海鮮料理が並んでおり、3人とも
刺身定食とハマグリの塩焼きを注文した.さすがに観光地だけあってか、それなりの値段だった.

我々は食事の支払いを済ませ、車に乗り込み、島から脱出...いや、島を離れることに.ところが、橋を渡って次の目的地へ向
かおうとしたその時、突然母親が驚きの声を上げた.「駐車場代が引かれていない」らしい.支払い時はいちいち計算しないので
気が付かなかったが、後で計算してみると駐車場代領収券を渡したにもかかわらず500円が引かれていなかった.「また、やら
れた」3人がそう思ったのも言うまでもない...

とにかく「だまされまくり」の江ノ島ツアーだった.ここまで見事にだまされると悔しいという気持ちより、何かこう「晴れ晴れ
とした気持ち」になるのは何故だろう.数十年前から時間が止まってしまった異次元の空間を体験してきたような気がする.まさ
に竜宮城のようだ.

単に「我々がマヌケだった」という有力な説もあるが...



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